第61章 あなたは犬ですか?

「すみません」綾瀬悠希は慌てて手を後ろに隠した。「藤堂さん、わ、私、わざとじゃ……」

もう一度触りたくなってしまうのはどういうことだろう?

「私、本当に酔ってしまったのかもしれません。なんだか綾瀬先生が、ある人にとても似ている気がして」

綾瀬悠希はぱちぱちと瞬きをした。「どういう意味ですか? 人に似てないなら、他に何だって言うんですか」

「……」藤堂譲は、これほど疲れたことはなかった。

冷静を保て、と自分に言い聞かせ続けてきたが、どうにもうまくいかないようだ。

この綾瀬悠希という女は、いつもこちらの返答に窮するようなことばかり言ってくる。

「冗談ですよ、へへ。あの……そろ...

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