第62章 男にとって腰がどれほど重要か知っているか?

彼に抓られた顎がまだじんわりと痛む。唇も噛み切られてしまったようだ。綾瀬悠希は考えれば考えるほど、悔しさが込み上げてくる。

「変態!」

突き飛ばされた藤堂譲は、足をもつれさせて背後の酒棚にぶつかり、思わず眉をひそめた。

彼は何事もそつなくこなすのに、綾瀬悠希に対してだけはどうにも打つ手がない。

「俺は君をどうすればいい?」藤堂譲は途方に暮れたように言った。

なぜだか、綾瀬悠希はその声色からある種のやるせなさを聞き取った。

それでも彼女は冷たく言い放つ。「家に帰ります」

藤堂譲のような情緒不安定な人間は、まるで時限爆弾だ。いつ彼の機嫌を損ねて自分の命がなくなるかわからな...

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