第79章 あなたは先ほど私を避けていましたか?

「藤堂社長、こちらへどうぞ」

秘書がにこやかに藤堂譲を応接室の入口まで案内すると、その声を聞きつけた楠本和也が急いで出迎えた。

「藤堂社長、ご無沙汰しております。どうぞ、中へ」

綾瀬悠希は俯きながら会議室から出てきて、蚊の鳴くような声で言った。「楠本社長、お客様がいらしたようですので、私はオフィスに戻ります」

「待て」藤堂譲が彼女の行く手を遮る。「綾瀬さん、今日はお前に会いに来たんだ」

「……」綾瀬悠希は心底うんざりしていた。年寄りの相手をしたかと思えば、今度は若いのを相手にしなくてはならない。

藤堂譲が来たのはきっとあの件のためだろうが、今はそんな話をしている場合ではない。...

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