第87章 クズ男

綾瀬悠希のそんな態度を見て、桜井翔平の表情が微かに引きつった。

 だが、彼はすぐにその顔に慈愛に満ちた笑みを貼り付け、綾瀬悠希に向かって猫なで声を出した。

「そんなに急いで出かけるのか? 朝食もとらずに行くなんて感心しないな。時間はまだあるんだ、少し腹に入れてから行きなさい」

 綾瀬悠希は冷ややかな視線を彼に投げかけた。

 望月家と関わりを持ってからというもの、桜井翔平はこうして彼女の前で「慈父」の仮面を被るようになったのだ。

 下心が見え透いたその優しさは、反吐が出るほど不愉快だった。

 桜井翔平の虚飾に満ちた顔を見ていると、会話をする気力すら失せる。彼女は何も答えず、踵を返して...

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