第97章 他人の褌で相撲を取る

「桜井恵那と申します」

 その名を聞いた瞬間、藤堂家の御隠居様は己の耳を疑った。

 自分が時代に取り残されているのだろうか。彼女の記憶にある「桜井悠」という名は、響きが良く、独特で凛とした賢さを感じさせるものだった。「桜井恵那」などという、どこか俗っぽい響きよりもずっと好ましかったはずだ。

 一同がダイニングテーブルにつく。桜井恵那はちょうど御隠居様の正面に座った。そこでようやく、御隠居様は彼女の顔をまじまじと見ることができた。

 先ほどリビングにいた時は、若い娘の顔を凝視するのは無作法かとはばかられたが、こうしてダイニングの照明の下で仔細に眺めてみると、目の前の「桜井さん」は、記憶の...

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