第32章

末永言葉が大奥様の寝室へ足を踏み入れた瞬間、ほのかな檀香の匂いが鼻先をくすぐった。

赤い木肌の小さな卓には青花の茶器が揃えられ、急須の口からは白い湯気がすうっと立っている。

「座りなさい」

大奥様は脇の椅子を指し、さらに茶を注いで、言葉の席の前へ静かに置いた。

「これはね、あなたの義母さんがこの前持ち帰った花茶よ。飲んでみなさい」

末永言葉は湯呑を受け取り、そっとひと口含む。

――呼ばれた理由が、このお茶一杯のためじゃないことくらい、分かっている。

「承弦が離婚の話を出したそうね。耳に入っているわ」

指先がびくりと震え、危うく湯呑を落としかけた。

「でもあの子は……昔から口...

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