第53話

里香の視点

私たちは一秒ほど視線がぶつかり、どちらも動かなかった。

私は手にタオルを握りしめたまま。濡れた髪が肩にかかり、毛先から滑り落ちた雫が、パジャマの襟元に丸い染みを作っていた。

彼の視線が私に留まったのは、五秒にも満たなかった。すぐに逸らされ、傍らの床へと落ちる。その瞳の奥で何かが一瞬だけ瞬いたけれど、早すぎて読み取れなかった。

気まずさ? 少しはあるかもしれない。

けれど、本当にただそれだけ。

なんだかんだ言っても夫婦だ。もっと親密なことだって、昔はなかったわけじゃない。むしろ少なくなかった。あの頃の彼は今ほど冷たくなくて、もしかしたら愛されているのかも、なんて思ったこ...

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