第30章

三人称視点

 高木文弘は顔を強張らせ、その紙切れを穴が開くほど見つめていた。

「いや……っ」

 高木愛美は弾かれたように我に返ると、膝の激痛も構わず、這いつくばるようにして彼へと飛びかかった。

「返して! それは私のよ!」

 裁判所を出たら、病院へ行って胎児の様子を診てもらうつもりだった。

 今日、彼女をここまで送ってくれたのは丸山大翔だ。

 彼は愛美を心から案じてくれていたが、もし同席すれば文弘を逆上させる恐れがあったため、外で待機してもらっていたのだ。

 自由を手に入れるまで、あとほんの一歩だったのに。

 くそっ!

 だが、文弘の身のこなしの方が早かった。片手を高く上げて愛美の...

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