第五十章

愛美視点

 タクシーの中で、私の心臓は早鐘のように打ち鳴っていた。

 先ほどラボに戻り、猛スピードで高濃度のエーテルをスプレーボトルに何本も詰め込み、コートのポケットにはメスを一本忍ばせた。

 あの箱は、私と過去を繋ぐ唯一のよすが。

 何としても取り戻さなければならない。

 万一の事態を防ぐため、私は菅原剛に電話をかけた。

「教授、私です、愛美です……」

「少し緊急事態に陥ってしまって、至急お金が必要なんです。五百万……不躾なお願いだと分かっていますが、どうか信じてください。必ず、すぐに返しますから!」

 電話の向こうで、いつも厳格な教授は少しの躊躇いも見せなかった。

『口...

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