第108章

どれくらい歩いただろうか。気づけば、道ゆく人々が私を遠巻きに見ながら、何かを囁き合っている。最初はてっきり、坂下直樹の不倫騒動がここでも噂になっているのかと思った。それについては、会社での陰口に揉まれてすっかり耐性がついていたから、大したダメージではない。けれど、すぐに真の問題に気づいた。足の裏が、焼けるように痛いのだ。

 視線を落として、愕然とする。片方の靴がない。伊藤香織の家を出る時、彼女は代わりの靴を用意してくれたはずなのに、私はそれすら忘れて飛び出してきてしまったらしい。結局、片方だけの靴という無様な格好で歩き続けていたのだ。

 途端に、穴があったら入りたいほどの羞恥心がこみ上げ...

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