第118章

包丁という脅威を前にして、私と伊藤香織はようやく安全を確保した。義母は強硬手段が通じないと悟るや否や、瞬時にその仮面を付け替えた。あふれんばかりの涙を目に浮かべ、私の方へ歩み寄ろうとする。本来なら香織が止めに入ることなどないと高を括っていたのだろうが、切っ先を突きつけられては足を止めざるを得ない。

「お嫁さんや、あの子が悪かったのは認めるよ。だから今回だけは許しておくれよ。長年連れ添った夫婦なんだ、そう簡単に別れるなんて言わないでくれ」

 この時ばかりは、いかにも義母らしい口調だった。

「そうだそうだ、話せばわかることだ。物騒な真似はやめよう。な、まずは包丁を置いて、落ち着いて話し合お...

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