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坂下直樹は肩をすくめた。

「俺は心が広いからな、もういらないよ」

「坂下直樹」

その時、離れた席の女が待ちくたびれたのか、彼の名を呼んだ。坂下直樹は彼女に「もう少し待ってて」と手を振ってから、再び私に向き直った。

「高橋真美、俺が離婚したくなかったのは知ってるだろ。ずっと俺を追い詰めていたのはお前の方だ。どうせ、とっくに外に男を作ってて、そいつのために俺を追い出そうとしたんだろ」

「白黒を逆転させるのは、坂下家の輝かしい伝統なの?」

私は冷ややかな軽蔑の眼差しで坂下直樹を睨みつけた。浮気したのは彼の方なのに、どうしてここまで堂々と私を非難できるのだろう。

坂下直樹は手を挙げて私...

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