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トイレという言葉を口にした途端、西村慧子はさっと顔を赤らめた。いたずらが見つかって保護者の前に立たされた生徒のようにうつむき、慌てふためいている。彼女は「わ、わたし……」と口をぱくぱくさせるばかりで、結局何も言葉になっていなかった。

「そんなに緊張しなくていいわ。私、もう坂下直樹とは離婚したの。それに、浮気相手を捕まえに来たわけでもないから。だって、今の彼の妻は別の人だもの。仮に浮気相手を問い詰めるとしても、それは今の奥さんがするべきことであって、私じゃないわ」

「えっ?」

私の言葉に、西村慧子は一瞬ぽかんとして、半ば本能的に聞き返した。彼女が私の言葉の意味を理解していないわけではない...

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