第19章

長川貞也は表情ひとつ変えず、指先で万年筆を弄びながら、床に跪く中年男を見下ろしていた。圧は強い。だが、どこまでも他人行儀で冷たい。

橋野振武みたいな手合いは、これまで何人も見てきた。底なしの強欲。自分勝手。しかも頭が悪くて役にも立たない。

金を渡す? あり得ない。

とはいえ、渡さなければ渡さないで、あいつが「俺は長川の婿だ」などと吹聴して回り、詐欺まがいの真似やチンピラじみた騒ぎを起こす可能性がある。それもそれで面倒だ。

長川貞也は、面倒が何より嫌いだった。

万年筆を置き、鈴木青へ視線を投げる。鈴木青は即座に意図を汲み、橋野振武を立たせると、水を一杯注いで差し出した。

「焦らなく...

ログインして続きを読む