第4章 私を欺く結末
浅井立夏は思わず身震いした。彼女は宮原裕也を恐れていた。その恐怖は、彼らが成人して初めて再会した時から、彼女の骨の髄まで深く刻まれていた。
あの日は宮原グループの新任社長就任式だった。彼女は会社に入ったばかりの新人で、列の最後尾に立っていた。宮原裕也が大勢の人に囲まれて入ってくるのを見た。
彼は体にぴったりと合った黒いスーツを着ており、白いシャツが彼のハンサムな顔立ちを一層引き立てていた。彼は壇上で挨拶をし、その後、賄賂を受け取った数人の幹部を即座に解雇し、彼らを告発して刑務所送りにした。
彼の行動は迅速かつ冷酷だった。彼が就任してから、会社の幹部は大幅に入れ替わり、その期間、会社内は誰もが戦々恐々としていた。
その後、しばらくの間、社員たちは彼のことを「悪魔」と呼び、恐れていた。
浅井立夏も恐れていた。
今、彼の顔色は恐ろしいほど暗く、先ほどの中庭での様子よりもさらに怖かった。
彼女は目を伏せ、彼の完璧にアイロンがけされたズボンの裾を見つめた。彼女は思った。どんな時でも、彼は完璧で無欠だ。最も惨めなのはいつも自分だと。
「話せ！」
男の低い声は怒りを含んでおり、浅井立夏の心臓を震わせた。彼女は彼の冷たい視線を避け、一瞬、何を言えばいいのか分からなかった。
あの時、彼女は流産し、大量出血で子宮を傷つけた。その後、病院で再診察を受けた時、医者からこの先妊娠は難しいと言われた。
再診察の後、彼女は宮原裕也にそのことを伝えようとしたが、口を開いた途端、怒り狂った彼に強引に抱かれた。
宮原裕也は彼女をじっと見つめ、その深い瞳はまるで墨を垂らしたように黒く、彼の心の内を読み取ることはできなかった。
浅井お母さんは隣で心配そうにしていた。彼女は慎重に口を開いた。「裕也、立夏ちゃんは考えなしに話してしまったの。彼女はわざと私を怒らせようとしただけで…」
「義母さん、」宮原裕也は浅井お母さんの言葉を強引に遮った。「まず浅井立夏を病院に連れて行って診察を受けさせます。彼女がわざと怒らせたのかどうか、診察が終われば分かります」
そう言うと、彼は浅井立夏の手首を掴み、駐車場へと引っ張って行った。
浅井お母さんは宮原裕也が怒る姿を初めて見た。彼女は不安でいっぱいだったが、彼の怒りを恐れてついて行くことができなかった。
彼女は浅井立夏の前では強気でいられたが、それは彼女が実の娘だからだ。真に強い人に対しては、すぐにおとなしくなるのが、彼女が長年豪邸で学んだ生き方だった。
躊躇している間に、宮原裕也は浅井立夏を連れて遠くへ行ってしまった。
宮原裕也は浅井立夏を助手席に押し込み、私立病院へ向かって車を走らせた。道中、彼は浅井立夏に最後のチャンスを与えた。
「ここから病院まであと30分だ。正直に話せば軽く済む。抵抗すれば厳しくなる」
浅井立夏は窓の外を見つめた。外は夜の闇が深く、車窓はまるで鏡のように彼女の不安な顔を映していた。
彼女はどう言えばいいのだろう？
あの時、彼女は流産した子供のことを話し始めただけで、彼は激怒した。
それが初めて彼の恐ろしさを知った瞬間だった。
彼女は唇を強く噛み締め、何も言わなかった。
宮原裕也はハンドルを握りしめ、時間が経つにつれて手の甲に青筋が浮かび上がった。前方に病院の赤十字が見えた時、彼は彼女が口を開かないことを悟った。
車は病院に入って「ギィッ」と音を立てて止まった。
宮原裕也は車から降り、怒りのオーラを纏いながら助手席の浅井立夏を引きずり下ろした。彼は彼女の顎を掴み、無理やり顔を上げさせて彼と目を合わせた。
「浅井立夏、私を欺いたらどうなるか分かっているだろう」
浅井立夏は彼の目を見つめた。彼の深くて黒い瞳はまるで深い淵のようで、彼女を吸い込んで溺れさせるかのようだった。彼女は視線を逸らし、彼を見つめるのをやめた。
宮原裕也は彼女の消極的な反抗に怒りを覚え、冷笑した。「いいだろう。どこまで強情を張るか見てやる」
彼は彼女の手首を掴み、病院の中へ引きずり込んだ。
私立病院には全ての設備が整っており、一連の婦人科診察はわずか10分で終わった。
婦人科医長のオフィスで、宮原裕也は椅子に座っていた。彼の威圧感は周囲に圧迫感を与えていた。
婦人科医長は唾を飲み込み、言葉を選びながら話し始めた。「宮原さん、奥様は以前の流産で子宮内膜が薄くなり、卵管が癒着しています。さらに長期間避妊薬を服用していたため、体内のプロゲステロン値が正常値を下回っています。ですから…今後妊娠は非常に難しいでしょう。心の準備をしておいてください」
宮原裕也は車の中で大体の予想はしていたが、浅井立夏の体の状態がここまで悪化しているとは知らなかった。それでも彼女は彼に一言も漏らさなかった。
婦人科医長は彼が黙っているのを見て、冷たい空気に震えそうになりながらも、再び口を開いた。「それから、先ほどの診察で、宮原奥様が避妊薬にアレルギーがあることが分かりました」
宮原裕也は息を詰まらせ、婦人科医長の言葉は鋼の針のように彼の喉を貫いた。強裕也な鈍痛に襲われ、視界が暗くなり、呼吸さえも困難になった。
