第137章

会場の観客が一斉にはやし立て始めた。群衆の中から誰かが先導して「キスして!」と叫んだ。

その後、場面は収拾がつかなくなった。全員が声を張り上げて「キスして、キスして!」と叫んでいる。

渡辺美代は恥ずかしがり屋で、こうしたはやし立てを聞いただけで顔を赤らめていた。彼女は高橋隆一を見る勇気もなく、彼が本当にキスしてくるのではと恐れていた。こういうことは二人きりの時にするものであって、舞台の上で見世物のように皆に見られるのはあまりにも恥ずかしかった。

数秒間、時間が止まったように感じ、渡辺美代はこの場から逃げ出したいと思った。

高橋隆一は数秒間彼女を横目で見て、その困った様...

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