第16章

高橋隆一の心は複雑だった。山本美咲の体調が良好で、病気の兆候がないと知ったとき、彼はほっとした。しかし同時に、渡辺美代への心配が再び頭をもたげた。渡辺美代は病院で脳震盪と診断され、彼に吐いてしまったのだ。明らかに演技ではなかった。

その患者は今、一階で彼を待っている。

この瞬間、高橋隆一は針のむしろに座っているような気分だった。彼はただすぐにでも下に降りて渡辺美代の様子を確認したいと思った。

「ごめん、美咲ちゃん。今日はここで。用事があるんだ」

山本美咲の笑顔は徐々に消え、目には失望の色が浮かんだ。高橋隆一は一瞬心が痛んだが、どうしても行かなければならなかった。

正式に渡辺美代と離...

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