第166章

渡辺美代は一瞬緊張した。

「私一人で行くわ。あなたは自分のことで忙しいでしょう、気にしないで」

「忙しくない」

老人は若い夫婦が自分の前で遠慮し合っているのを聞いて。

「忙しくないだったら美代を手伝え！彼女の代わりに並びに行け」

渡辺美代は黙り込んでから病室を出た。高橋隆一は彼女の後について出て来て、彼女の後ろにのんびりと立ち、彼女に使われても構わないという表情を浮かべていた。

渡辺美代は病室のドアを振り返り、心の中で思った。彼女はこの男を使う勇気なんてない。おじいさんに聞こえるのを恐れて、声を潜めて言った。

「私一人で大丈夫よ。本当に手伝ってもらう必要はないわ、あなたは忙しい...