第168章

渡辺美代は目を開けて見慣れた環境を見回し、そして田中さんの笑みを浮かべた顔を見た。

「今何時?」

彼女は尋ねた。

「今は午後一時半です。三時間以上お休みになられました」

田中さんはぬるま湯を一杯持ってきた。

渡辺美代は頭の中で急速に考えを巡らせ、自分が彼に抱えられて戻ってきたことを思い出した。彼女は周囲を見回したが、高橋隆一の姿はなく、少し安心した。

田中さんは笑いながら言った。

「高橋社長は会社の用事で先に行かれました。奥様の体を拭いて熱を下げるようにと言いつけられましたが、まずは体温を測ってみてください。熱がなければ拭く必要はありませんから」

渡辺美代は体がずっと楽になっ...

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