第23章

「奪われた?」高橋隆一の眉間に深い皺が寄る。その言葉に明らかな疑念が込められていた。「どこで奪われたんだ?」

結婚して三年、渡辺美代は高橋隆一の口調を聞いただけで、彼が何を考えているのかすぐに分かった。彼女は悲しみを感じた。何を言っても、高橋隆一の第一反応は疑いだった。

彼は一度も彼女を信じたことがなかった。

渡辺美代は普通の夫婦を見たことがある。妻が自分の物を奪われたと言ったら、妻を愛している夫の第一反応は妻が怪我をしていないか心配することだろう。

嘘をついているかどうかを疑うのではなく。

奪われたという理由は確かに荒唐無稽に聞こえるが、これは事実だ。山本美咲が帰国したその日、つ...

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