第7章
ちょうどその時、看護師が入ってきた。彼女の手にはトレイがあり、いくつかの薬瓶が載っていた。微笑みながら言った。「渡辺さん、点滴を始めますね」
高橋恭介はすぐに立ち上がり、看護師のそばに歩み寄って、心配そうに尋ねた。「何か手伝いましょうか?」
高橋恭介の優しくて細やかな視線に、看護師は顔を赤らめた。彼女は病院でよく高橋恭介を見かけており、彼が小林先生の友人であり、超一流の富裕層であることを知っていた。そんな彼が自分たちのような医療スタッフに対しても礼儀正しく接してくれることに、看護師たちは密かに憧れていた。
看護師は顔を赤らめながら言った。「高橋さん、もしよろしければ、渡辺さんの姿勢を少し調整していただけませんか?もっと楽になるように」
看護師は高橋恭介のイケメンな顔を直視できず、俯いて針を準備する。心を落ち着けないと、針がうまく刺さられなくて患者に痛みを与えてしまうかもしれないからだ。
高橋恭介はすぐに行動を起こし、渡辺美代の体を慎重に調整して、頭と背中に十分な支えがあるようにした。
彼の動作は細やかで優しく、まるで貴重な芸術品を扱うかのようだった。渡辺美代を傷つけないようにと、細心の注意を払っていた。
「これで大丈夫ですか?」高橋恭介は心配そうに尋ねた。
「大丈夫です。ありがとう」渡辺美代は少し驚き、心に温かさが広がった。叔父さんがこんなに細やかに気を使ってくれるとは思ってもみなかった。普段は独立していて、高橋隆一に冷たくされることに慣れていた彼女は、このような優しさに戸惑いを感じた。
しかし、高橋恭介は一言も余計なことを言わず、過剰な行動も取らなかった。渡辺美代は自分が考えすぎているだけだと思った。
看護師が渡辺美代に針を刺し始めると、高橋恭介はそばで静かに見守り、彼女の反応を見逃さないようにしていた。
彼の視線は渡辺美代に安心させる一方で、少し落ち着かない。
彼女はこんなに細やかに世話をされることに慣れていなかったが、渡辺美代の眉間の微かなしわが高橋恭介に誤解を与えた。
「どうしたの?どこか痛いの?」
「いいえ、大丈夫です」渡辺美代は嘘をついていなかった。看護師の技術は素晴らしく、点滴がゆっくりと腕に流れ込み、冷たい感覚が血管を通って心臓に届いた。
渡辺美代はこの感覚がちょうど良いタイミングで来たと思った。頭を冷やして、無駄な考えをしないようにするからだ。
彼女は心の中で自分に言い聞かせた。「考えすぎないで、叔父さんはただ心配してくれているだけ。彼はあなたを家族の一員として見ているんだ」そう思うと、渡辺美代は高橋恭介の優しさを受け入れることができるようになった。
点滴が終わると、看護師は部屋を出て行き、小林先生もいくつかの注意事項を伝えた後、病室を離れた。しかし、高橋恭介はずっとその場に残り、渡辺美代の良し悪しを確認し、彼女の快適さを確保するために時折質問を投げかけた。彼の視線は点滴の透明な液体を追い続けた。
「叔父さん、本当にこんなに気を使わなくても大丈夫です。自分でできますから」渡辺美代は自分の考えを伝えようとしたが、高橋恭介の優しい目に遮られた。
「わかってるよ、美代ちゃんは一番強い女の子だ。でも、叔父さんは家族の一員として、君を気遣う責任があるんだ。もし父さんがここにいたら、きっと君を世話するように言うだろう」
「でも……」渡辺美代は何か言おうとしたが、高橋恭介に再び遮られた。彼は優しい笑みを浮かべて言った。「美代ちゃん、君が何を心配しているか分かってるよ。安心して、もう二人の介護士を雇ってあるから、彼らが来たら僕は帰るよ」
渡辺美代の心に感動が広がった。
「ありがとう、叔父さん」
渡辺美代は点滴のゆっくりとした流れの中で、次第に眠気を感じ、重いまぶたが閉じていった。最終的に温かい病室の中で深い眠りに落ちた。彼女の寝顔は咲き誇る花のように静かで美しく、頬には淡い赤みが差し、夢の中でも微笑んでいるかのようだった。
高橋恭介は静かに彼女のベッドのそばに座り、その寝顔に目を奪われ、心に温かさが広がった。
彼は椅子をそっと調整し、できるだけ静かにしようとしたが、どうしても彼女の顔を見てしまった。渡辺美代の長いまつげが軽く震え、空気を隔てて高橋恭介の心をくすぐった。
その時、病室のドアが静かに開き、小林先生が検査結果を手に持って入ってきた。
彼は友人の顔に浮かぶ痴漢のような表情を見て、からかうように言った。「おい、まだ見てるのか?まあ、こんなに可愛い子なら、俺も見飽きないだろうな」小林先生は手に持った報告書を揺らしながら言った。「おめでとう、君がついにお父さんになるなんてな。こんなに長い間友達なのに、結婚することも教えてくれなかったなんて」
「結婚してないよ」その答えを聞いて、小林先生は目を白黒させた。
「結婚してないのに、女を妊娠させたのか。まったく、高橋恭介がそんな奴だとは思わなかったよ!」小林先生はふざけた様子で高橋恭介を責めた。
高橋恭介は微かに彼を睨んだ。
「声を小さくして」
「おいおい、今まで彼女を大事にするのか?それなら早く結婚すればいいのに」小林先生は報告書を高橋恭介の手に押し付けた。
「自分で見てみろ、もう妊娠六週目だ。彼女が退院したら、みんなでお祝いしようぜ?」
「違うんだ、彼女は僕の妻じゃない」
「わかってるよ、まだ結婚してないんだろ?彼女だろ?」小林先生は高橋恭介がただ恥ずかしがっているだけだと思い、言い方を変えた。しかし、高橋恭介の答えは彼の笑顔を凍りつかせた。
「彼女は僕の甥の嫁なんだ。だから彼女のお腹の子は僕をお爺さんと呼ぶことになる」
その衝撃的なことに、小林先生はしばらく消化する必要があった。
高橋恭介の心にも無数の感情が渦巻いていた。渡辺美代への心配と、彼女の突然の妊娠の事実に対する驚きが入り混じっていた。
彼は父が高橋隆一と渡辺美代の子供をどれほど待ち望んでいたかを知っていた。普通ならすぐに父に電話してこの良い知らせを伝えるべきだが、高橋恭介の心は複雑だった。彼はこのことを自分の口から伝えたくなかったし、渡辺美代が本当にこの子を望んでいるのかもわからなかった。
