第74章 パクチーが好き

彼もまた、森川汐里がもう死んだとは信じていなかった。

「おばさん」

森川汐里が声をかける。

「私のはパクチー、多めで。好きなの」

調理場へ入ろうとしていたおばさんが、ぴたりと足を止めた。

「はいよ」

藤原由真の瞳孔が、わずかに揺れる。拳をぎゅっと握り締めた。

森川汐里は、パクチーが大嫌いだった。

腹を空かせても、パクチーだけは絶対に口にしない。

「この世でいちばん不味い」とまで言い切っていた――。

……本当に、彼女は森川汐里なのか?

疑念が胸の奥で膨らむ。だが、その考えを由真はすぐに押し込めた。

彼女が違うなら、森川汐里はどこへ行った?

死んだ?

――いや。あの女...

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