第212章

土井千影は彼を相手にせず、ただ冷ややかに鼻を鳴らすと、踵を返して外へと歩き出した。

待機していた車に乗り込むや否や、彼女は運転手に発車を命じる。

取り残された天宮北斗は、呆然と立ち尽くすしかなかった。

彼は慌てて手を振り、遠ざかる車影に向かって声を張り上げる。

「千影! 千影、まだ私が乗っていないぞ!」

しかし返事はなく、ただ車のテールランプが遠ざかっていくだけだった。

「北斗様、奥様は頭に血が上っておられるご様子。少し頭を冷やしていただくとして、我々は先に戻りましょう」

執事は見るに見かねて声をかけた。天宮家の分家とはいえ当主であり、天宮グループの役員でもある男が、衆人環視の...

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