第89章

築山と池を迂回し、鬱蒼と茂る十数本の木々を抜けた先に、ようやく本館の威容が見えてきた。

 館内は煌々と明かりが灯り、窓越しに使用人たちが忙しなく行き交う様子が窺える。

 玄関先まで来ておきながら、宇野火恋はまたしても怖気づいた。

 彼女は足を止め、恐る恐る尋ねる。

「ねえ……天宮の旦那様、いる?」

 川元が無言で頷くのを見て、彼女は即座に踵を返した。

「じゃ、また改めるわ」

 言い捨てて立ち去ろうとしたが、背後から伸びてきた腕に行く手を阻まれた。

「待ちたまえ」

「何すんのよ!」

 宇野火恋は目を剥き、怒鳴りつけようとしたが、目の前の男が天宮徳臣の側近であることを思い出し...

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