第5章
村上裕介のプライベートスタジオは、私たちの聖域と化していた。数時間にわたり、東洋と西洋の音楽要素を融合させるという、未知の海図を広げる冒険に没頭していた。
「この音階を試してみてくれ」
村上が差し出したのは、走り書きされた手書きの楽譜だった。
それを受け取り、ヴァイオリンの弦をそっと撫でる。弓を当てた瞬間、驚くべきことが起きた。私の指が、思考を介さずとも、ごく自然に弦の上を滑り、最もふさわしい音色と表現を紡ぎ出していく。まるで、このメロディをずっと昔から知っていたかのように。
「すごいな……」
演奏を止め、信じられない、というように息を吐いた。
「どうしてこんなに、この音...
ログインして続きを読む

チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章

4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章


縮小

拡大