第6章

「もう一度だ、綾音」

村上裕介が顔を上げた。その鋭くも集中した眼差しが、私のすべてを射抜く。

「第三小節の感情の起伏はもっと自然に。無理に作り出すな。呼吸するように、流れるように」

私は深く息を吸い込み、再び弓をそっと弦に乗せた。今度は自分を解き放ち、音楽が水のように指先から流れ出るイメージを描く。村上の視線は私の一挙手一投足を追い、演奏におけるどんな些細な感情の揺らぎも見逃さない。まるで魂の奥底まで見透かされているかのようだ。

「……完璧だ」

最後の音符がスタジオの空気に溶けて消えると、彼は満足げに頷いた。

「君の進歩は驚くほどだ、綾音」

私は微笑んでヴァイオリンを下...

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