第2章

震える手でロッカーのダイヤルを回した。金属製の扉が開くと、死んだネズミが一体、べちゃりという嫌な音を立てて床に落ちた。

思わずえずいてしまった。みんなが見ている前で。

ロッカーの内側にはメモが貼られていた。黒井唄の完璧な筆跡で書かれた文字。

『これが貧乏人の匂いよ』

気持ち悪い。廊下で本気で吐いてしまいそうだ。

「うっわ、マジかよ、夏川雫!」

高橋千尋の声が響き渡る。わざとらしく驚いた、やけに大きな声。

「ちょーキモいんだけど! 注目されたくて自分で入れたんじゃない?」

カメラのシャッター音が聞こえる。もうみんなが投稿して、シェアして、笑いものにしている。昼休みまでには、全員が知っているだろう。今夜までには、きっとSNSで拡散されているだろう。

計画的だ。わざわざ時間を割いて、こんなことを計画したんだ。

震えが止まらない手で教科書を掴み、廊下を追いかけてくる囁き声と笑い声を無視しようと努めた。用務員さんがこちらへ歩いてくる。まるで、これが私のせいだとでも言いたげな顔で。

どうやって説明すればいいの?誰が信じてくれる?

体育の授業なら安全だと思っていた。佐々木コーチは私を公平に扱ってくれるし、いつもスポーツの授業中は、一人で黙々とやっているだけだから。

でも、コーチがフィールドホッケーのチーム分けを発表したとき、私の心臓は凍りついた。

「黒井唄、夏川雫と同じチームだ」

黒井唄はホッケースティックを手に、にこやかに微笑みながら駆け寄ってきた。私たちのチームの他の女子たちは、急に私から遠く離れて立つ理由を見つけたようだった。

「心配しないで、夏川雫」

彼女はみんなに聞こえるように言った。

「しっかり面倒見てあげるから」

最初の一撃は、ボールの奪い合いの最中に来た。彼女のスティックが私のすねに叩きつけられ、ゴキッと音が聞こえたほどの強さだった。稲妻のような痛みが脚を貫き、私は激しく倒れ込んだ。舌を噛んでしまい、血の味がする。

「おっと!」

黒井唄がわざとらしく無邪気に叫んだ。

「ごめん!完全に事故だ!」

コーチはろくに顔も上げなかった。

「夏川、大丈夫か?それくらいで休むな」

休むな。まるで脚を駆け上るこの痛みが何でもないかのように。ろくに立てないことさえ、私が大げさに騒いでいるだけだというかのように。

授業の残り時間を足を引きずりながら耐えたが、黒井唄はまだ終わらせるつもりはなかった。ボールが私の近くに来るたび、彼女のスティックが私の脚を狙ってきた。すね、足首、膝の裏。

わざとだ。わざと私を傷つけているのに、誰も気にしていない。

終わる頃には、私は泣いていた。痛みからだけじゃない。この屈辱の全てに。他の女子たちは私を見ようともしなかった。

その後、ロッカールームで、私がベンチに座って、でき始めた痣を見つめながら涙をこらえていると、黒井唄が私のロッカーに寄りかかった。

「うわ、それ、すごく痣になりそう」

彼女はみんなに聞こえるように言った。

「もっと気をつけた方がいいんじゃない?ドジな子は怪我しやすいからね」

彼女が憎い。本気で憎い。

これが最悪だと思っていた。

私の考えは、ひどく、ひどく甘かった。

三日後、私は携帯が鳴り止まないせいで目を覚ました。不在着信十七件。メッセージ四十三件。持っている全てのSNSアプリからの通知。

今度は何?私が今度は何をしたっていうの?

震える指でSNSを開いた。タイムラインの一番上に、その画像はあった――私に似ているけれど、私ではない裸の写真。誰かが他人の体に私の顔をフォトショップで貼り付けたのだ。

添えられたキャプションは、私をこの世から消え去りたい気持ちにさせた。

『貧乏なヤリマンは金のためなら何でもするってわけね💸 #必死 #キモい』

これは現実じゃない。こんなことが私に起こるはずがない。

すでに顔を涙で濡らしながら、コメントをスクロールした。何百件も。学校の生徒、知らない人たちまで。ほとんどが私を気持ち悪い、ヤリマンと呼び、死ねと書き込んでいた。

でも、もっとひどいものもあった。ずっとひどいものが。

学校の男子たちが、私の体で何をしたいか、生々しく書き込んでいる。私の名前をタグ付けして。

もう二度と学校に顔を出せない。みんながこれを見た。みんながこれが本当の私だと思っている。

削除しようとしたけれど、それは私のアカウントですらなかった。誰かが私そっくりの偽のプロフィールを作成し、私の知り合い全員をタグ付けしていたのだ。

携帯が鳴った。お母さんから。

「雫、伊吹先生から電話があったの。写真が出回ってるって……何があったの?どうなってるの?」

言葉にさえならなかった。お母さんが、なぜ自分の娘が突然、悪趣味なネットの悪夢の中心にいるのか理解しようとしている間、私はただ電話口でしゃくり上げるだけだった。

言えない。みんなが私のことを何て言っているかなんて、言えない。

「今すぐ迎えに行くから」

お母さんはそう言って、鍵を掴む音が聞こえた。

「今すぐよ」

二十分後、学校から離れる車の中で、お母さんの手はハンドルを握りしめて震えていた。昨日着ていたであろう服を羽織り、髪はろくにとかしていない。

私のために仕事を抜けてきたんだ。きっと仕事のことで怒られるだろう。

「何とかするから」

お母さんは何度もそう言ったけれど、その声は不安で張り詰めていた。

「警察に電話しましょう。その写真を削除させるのよ」

本当に?それとも、ただ「悪ふざけ」だと言われて、何もできないって言われるだけじゃないの?

明日、学校に行くことを考えないようにしながら窓の外を眺めていると、後ろに黒い車がいるのに気づいた。

スピードを出しすぎている。車線を縫うように走っている。その車には、肌が粟立つような何かがあった。

「お母さん」

私の声はほとんど囁き声だった。

「後ろの車――」

その車は突然、対向車線にはみ出して加速し、私たちの隣に並んだ。色付きの窓ガラス越しに、助手席に座る黒井唄が見えた。

彼女は、笑っていた。

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