第5章
私たちが車を寄せると、伊吹道子さんは玄関先で待っていた。年は四十五歳くらいだろうか、白髪の混じった髪に、目元には笑い皺が刻まれている。私が想像していた里親のイメージとは、まるで違っていた。
「あなたが夏川雫さんね」と彼女は言った。他の人たちみたいに、私の顔の縫い跡をじろじろ見たりはしない。
「私は道子。夫の光なら、中で伊吹家特製のたこ焼きを作ってるわ」
伊吹家特製のたこ焼き。まるで今日がごく普通の火曜日で、私の人生が根こそぎ変わってしまった日なんかじゃないみたいに。
里親の一人、伊吹光さんは、まるで熊のぬいぐるみみたいな大柄な男性で、高校で歴史を教えているらしかった。彼は私を一...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
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