第103章 親情による誘拐

桜井結衣は足を止め、橘敏恵の顔に視線を落とした。

橘敏恵はその視線を真っ向から受け止め、さらに芝居を濃くする。

「電話口でね、ひどく泣いてたのよ。ずっとあなたのことを思ってる、どうしても一度会いたいって。……ねえ、何だかんだ言っても、あなたの実の母親じゃない」

わざとらしく黒崎亮二を一瞥する。案の定、老当主は湯呑みを置き、眉間に小さく皺を寄せた。

「へえ」

桜井結衣の声からは、感情の起伏が読み取れない。

「早く行ってあげなさい」

橘敏恵は歩み寄り、親しげに結衣の手を取った。仕草だけは完璧に慈しみに満ちている。

「車はもう運転手に用意させたわ。玄関に停めてある。理人があんな状態...

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