第111章 彼の心の人

桜井結衣はすぐには振り返らない。手にしていたアルバムをゆっくり閉じると、静かに立ち上がった。

振り向く動作は滑らかで、覗き見を咎められた人間の狼狽など欠片もない。

黒崎理人は書斎のドア枠にもたれ、腕を組んだまま、気だるげにこちらを眺めていた。

黒のラフな服に着替えている。背の高い体躯がいっそう際立ち、半明半暗の光を割って届く視線が、彼女と、その手にあったアルバムを面白がるように捉えた。

「お前、思ってたより度胸あるな」

長い脚をゆったり運び、焦らすような速度で中へ入ってくる。大きな影が入口の光を半分以上塞いだ。

「ここは――黒崎理人の書斎だ」

わざとらしく「黒崎理人」を強める。...

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