第2章 出獄

三年後。

刑務所の門がゆっくりと開き、朝霧和音が一歩、また一歩と中から出てきた。

三年の獄中生活は、彼女の元より薄かった体をさらに痩せこけさせ、入所時に着ていたワンピースはすっかり色褪せ、ぶかぶかになって体に掛かっている。

眩しい陽光の下、手のひらほどの大きさの顔にはほとんど肉がなく、そのせいで目がことさらに大きく見えたが、その眼差しに生気はなかった。

「〇三七番、おまえの物だ」

背後から看守の声が聞こえ、朝霧和音は振り返って受け取ろうとしたが、差し出した手は空を切った。

空っぽの布袋が地面に投げ捨てられる。少し離れた場所で、看守は嫌悪に満ちた眼差しを向けていた。

「出所したらまっとうに生きろよ。もう昔の朝霧家のご令嬢じゃないんだからな」

朝霧和音は聞こえないふりをして、静かにしゃがみ込み、荷物を拾った。

立ち上がった瞬間、目の前が真っ暗になり、体が微かにぐらついた。

襟元がはためき、痩せた鎖骨と、まだら模様の痕跡が覗く。新しい傷と古い傷が入り混じっていた。

この三年間、彼女が安穏に過ごせた日は一日たりともなかった。

出所する今日でさえ、あの者たちは彼女を見逃してはくれなかった。それどころか、彼女が模範囚として減刑されたことに不満を抱き、いつもよりずっと酷い仕打ちをしてきたのだ。

朝霧和音はその場でしばらくしゃがんでいたが、やがて気力を取り戻した。

布袋の中は空っぽで、身分証が一枚入っているだけだった。

彼女は身分証をしまうと、袋を無造作にゴミ箱に捨て、道端で車を待った。

刑務所は辺鄙な場所にあり、行き交う車もごく僅かだ。

どれほど待っただろうか、ようやく一台のタクシーを捕まえることができた。

「夏風苑まで」

車に乗り込むと、朝霧和音は出所後初めての言葉を口にした。声はひどく嗄れていた。

家に帰って、様子を見たかったのだ。

運転手はゆっくりと車を発進させ、バックミラー越しに彼女を一瞥した。

「こんな時間から面会かい?」

朝霧和音は静かに彼の言葉を訂正した。「出所です」

運転手は黙り込んだ。

朝霧和音は唇の端を歪め、窓の外に流れる景色に目を向けた。

高い壁の中に三年も閉じ込められ、外の世界を見るのはあまりにも久しぶりだった。

今、窓の外を過ぎ去っていく草木を見ても、どこか見慣れないものに感じられた。

車はゆっくりと夏風苑の入口で停まった。

見慣れているようで、どこか知らないこの道筋に、朝霧和音の胸には漠然とした不安がよぎった。

「すみません、少し待っていてください。私……」

彼女が手を伸ばし、ドアを開けようとした瞬間、視線の先で、ある邸宅の門がゆっくりと開いた。

見知らぬ女性が子供の手を引き、にこやかに中から出てくると、振り返って門に鍵をかけた。

朝霧和音の口から言葉が消えた。

あの邸宅は、元は彼女の家だった。今は……。

女性が歩いてくるのを見て、朝霧和音は思わず車を降り、彼女の前に立ちはだかった。

「すみません、あの邸宅を買われたのですか? 元々住んでいた人たちは……」

彼女が突然現れたことに驚き、子供がわっと泣き出した。

女性は不快そうに彼女を睨みつけると、そのまま彼女を避けて立ち去ってしまった。

道端に呆然と立ち尽くし、彼らの後ろ姿を見つめる朝霧和音だけが残された。

「あんた、朝霧家の、刑務所に入ってた娘さんか?」

背後で、運転手がクラクションを鳴らした。

朝霧和音は振り返り、唇をきつく結んだ。

「ごめんなさい、たぶん今すぐには料金を払えません。連絡先を教えてください。お金を稼いだら、必ず一番に払います」

しかし運転手は数枚の紙幣を取り出すと、車の窓から差し出した。

「持っていきな。うちの娘が昔病気になった時、朝霧家の財団に助けてもらったんだ。大したことはしてやれないが、これだけしかない」

たった二万円。以前の朝霧和音なら恥辱に感じたかもしれない。だが今、彼女にそんなことを気にしている余裕はなかった。

「ありがとうございます」

朝霧和音は手を伸ばしてそれを受け取ると、深々と頭を下げた。

タクシーが走り去るまで見送ってから、彼女はゆっくりと身を起こし、元あった朝霧家の方向を眺め、目元を赤くした。

収監されて三年。最初の頃は、両親と兄が面会に来てくれて、彼女の無実を晴らすと言ってくれた。

彼女は、桐生瑛が心変わりして朝霧家を見逃してくれたのだと思い、心の中で安堵すらしていた。

しかし、それから間もなく、朝霧家からの便りはぱったりと途絶えた。

あの日が来るまでは。彼女は殴られた際にやり返した罰として、昼食時に隅にしゃがんで食べるよう命じられた。器の飯は冷え切り、周りからは嘲笑の視線が注がれていたが、彼女は気にしなかった。

唯一気になったのは、食堂の大きなスクリーンで流れていたニュースだった。

朝霧家は経済犯罪により、桐生瑛自らの判決で、彼女の父に懲役七年が言い渡された。

画面が切り替わり、次のニュースは、桐生瑛と桜庭依々の婚約発表だった。

『私と瑛くんは幼馴染なんです。彼は私の過去を気にせず、婚約してくれると言ってくれました。感謝しないわけがありませんわ』

画面の中で、桜庭依々は桐生瑛の腕に絡みつき、甘い笑みを浮かべていた。

食堂は途端に騒然となり、人々は桐生瑛の剛直ぶりを称賛し、二人がどれほどお似合いかと言い合った。

同時に、憎悪の眼差しで朝霧和音を見つめ、彼女に向かって唾を吐き、ゴミを投げつける者もいた。巡回していた看守たちは皆、見て見ぬふりをしていた。

朝霧和音は全身が麻痺したかのようだった。

彼女は俯き、機械的に食べ物を口いっぱいに詰め込んだ。涙が顔中を流れても、それを拭うために手を上げることはなかった。

結局、自分は家族を巻き込んでしまった……。

この三年間、彼女は一日たりとも朝霧家のことを心配しない日はなかった。

しかしあの日以降、家のことに関する知らせは一切耳にしなくなった。

刑務所の中は情報が閉ざされているだけで、外に出れば大丈夫だと思っていた。

それなのに、今こうしてかつての家の前に立っているというのに、やはり何も分からないままだ。

三年の間にあまりにも多くのことが起こりすぎた。家族を見つけられる唯一の手がかりだった場所も、すでに他人の家になっていた。

かつての様々なことを思い返し、朝霧和音の眼差しは次第に固い決意を帯びていった。

朝霧家が巻き込まれたのは自分のせいだ。どうあっても、このまま打ちのめされるわけにはいかない。

当面の急務は、まず金を稼いで身を落ち着ける場所を見つけ、それからゆっくりと情報を集めることだ。

彼女は二万円を小銭に崩し、バスで都心へと向かった。

案の定、彼女の犯罪歴のせいで、雇ってくれる場所はほとんどなかった。

唯一彼女を受け入れてくれたのは、とあるナイトクラブだった。仕事は名目上はセールスだが、実態は体を売って酒を売るホステスだった。

朝霧和音に選択の余地はなく、その日の夜にはセクシーなメイド服に着替え、肌を大胆に露出した数人のホステスと共に一列に並び、客の品定めを受けていた。

個室はきらびやかなネオンに照らされ、金銭の匂いが充満している。

数人の御曹司たちが、値踏みするような目つきで彼女たちを眺めていた。

「今回の品は見た目は悪くないな。だが、ちと度胸が足りねえ。揃いも揃って仏頂面してんじゃねえよ。この鷹宮の若旦那が見てんだぞ、全員笑え!」

「鷹宮の若旦那はどの子がお好みで? まずは若旦那から選んでくださいよ」

人垣の中で、鷹宮剛が気怠そうにネクタイを緩め、軽薄な視線を向かいのホステスたちに向けた。

「剛さんって呼んでみろよ」

その言葉が終わると、彼の視線が合ったホステスたちは次々と甘ったるい声で彼の名を呼び始めた。その声は一人としてわざとらしくない者はいなかった。

一番端に立っていた朝霧和音の番が来た。

彼女はこのような場面は初めてで、前の者たちの真似をしようと必死だったが、いざ口を開くと、やはり不自然になってしまった。

「剛さん」

その一声には、無理に媚びようとする響きと、隠しきれない傲慢さが滲んでいた。

途端に、不満を露わにする者がいた。

「呼び方も知らねえなら出てけ! オーナーに言って代わりを寄越させろ!」

朝霧和音の心臓がどきりと鳴った。

これは彼女が見つけられた唯一の仕事だ。もしここで返品されたら、他にどこへ行けばいいのか、本当に分からなかった。

彼女が謝ろうとした、その時。鷹宮剛の面白がるような声が響いた。

「俺はそっちのタイプが好みだ。おまえに決めた。こっちに来い」

その視線は、まっすぐに彼女を射抜いていた。

朝霧和音は数秒呆然とした後、意を決して彼の元へ歩いていった。

「鷹宮の若旦那に気に入られるなんて、おまえは運がいいな。俺たちの若旦那にしっかりお仕えしろよ。悪いようにはしねえから」

誰かが彼女の背中を押した。

「きゃっ」

朝霧和音は短い悲鳴を上げ、体勢を崩して前へと倒れ込んだ。

次の瞬間、腰を大きな手に抱きとめられ、逞しい腕の中へと引き寄せられた。

鷹宮剛の揶揄するような声が耳元で響く。

「自分から飛び込んできたのか? 結構やるじゃねえか。さっきまで何を純情ぶってたんだ?」

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