第261章

「大丈夫。どうせ会社に戻るついでだから」

榎田神也は窓の外の夜景を眺めたまま、顔も向けずに淡々と答えた。

そのとき、着信音が鳴る。

「神也、明日の夜の会場に忘れ物しちゃってさ。上に上がって、取ってきてくれない?」

それだけ言うと、電話は一方的に切れた。

胸の奥に苛立ちがじわりと広がる。反論しようと口を開きかけた瞬間、天野千尋の声がそれを遮った。

「思い出しました。わたし、安眠にいい養生茶を持ってきてるんです。本当はお爺様にお渡しするつもりだったんですけど……」

お爺様への、安眠のための養生茶――。

神也は軽く頷いた。

「じゃあ、一緒に上まで行く」

「はい」

天野千尋はぱ...

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