第44章

「停車して」藤原羽里が突然言った。

「え?」田中廉の頭は一瞬フリーズし、上司の指示が理解できなかった。

「この車も私のものよ。私に借りを作りたくないなら、葉田さんは歩いて帰ったら?」藤原羽里は冷ややかに言い放った。

田中廉はその場で固まり、どうすべきか迷った。

藤原羽里は今、怒りに任せているが、病み上がりの葉田知世に本当に歩いて帰らせたら、怒りが収まった後で後悔して心配するんじゃないだろうか?

かといって車を止めなければ、上司の顔を潰すことになる。

「社長、奥様はいつも率直な方で......」信号待ちの間に彼は慌てて振り返って説明しようとしたが、後半の言葉は藤原羽里の鋭い視線に押...

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