第19話

慣れ親しんだ温かい腕の中に落ちていく感覚。だがマルティナは幸福を感じるどころか、胸の奥で苦々しさが募るばかりだった。

彼女は踏みとどまり、顔を上げると、再びベンジャミンのあの深く底知れぬ瞳と向き合った。

その瞳にはマルティナだけが映っており、かつてないほどの深い愛情を湛えているように見えた。

マルティナは慌てて顔を背け、自分に言い聞かせた。『マルティナ、今さら引き返すわけにはいかないのよ。ここでもし戻ってしまったら、もう二度と這い上がれない。誰からも見下されたままになってしまう』

そう念じると、彼女はベンジャミンの腕から強引に身を離した。

「ベンジャミン、もう話すことは何もないはずよ...

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