第9話

ベンジャミンは記憶の断片を慎重に手繰り寄せ、自分が心からマルティナに会いたがっていることを確信した。そして、意を決したように立ち上がった。

だがその時、左手の白い壁から何かが消えていることに気がついた。

「誰だ、書斎を動かしたのは」彼は問いかけた。

掃除担当のメイドが呼び出され、おどおどと答えた。「マルティナ様がご自身で動かされたのです……。あの日、マルティナ様はしばらくここに滞在され、多くのものを持ち出されたようでして」

「何を持っていったんだ?」ベンジャミンは身を乗り出すようにして訊いた。

「絵画……のようでしたが」とメイドは言った。

ベンジャミンはついに合点がいった。そうだ、...

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