第5章
彼は私を見つめ、瞳の奥に苦い葛藤の影を覗かせた。
「彼女の父親は、娘を俺に託して死んだ。もし今日、彼女を見殺しにしたら……俺は一生、自分を許せない。お前は巣で待っていろ。すぐに戻る」
そう言い残すと、彼は踵を返し、大股で扉へと向かっていく。
「セバスチャン!」
その背中に向かって怒鳴りつける。
振り返りもしない。
私はその場に立ち尽くし、固く閉ざされた扉を睨みつけながら、怒りのあまりかえって笑いが込み上げてきた。
いいわ。
上等じゃない。
泣いて喚いて死ぬ死ぬ詐欺。そんな安っぽい芝居がお望み?
私は荷物の中から一番切れ味の鋭いナイフを引き抜き、太もものホ...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
縮小
拡大
