第10章

病院の廊下に、慌ただしい足音と医療機器の絶え間ない電子音が響いていた。由紀は集中治療室の前を不安げに行き来しながら、固く手を握りしめ、その頬を涙が伝っていた。

「奥様、患者さんの意識が戻りました」と、看護師が部屋から駆け出してきた。「あなたのことを呼んでいます」

ドアを押し開けると、ブラインドの隙間から差し込む夕日が、亮介のやつれた顔に影を落としているのが見えた。肋骨には分厚い包帯が巻かれ、顔色は紙のように青白い。だが、その瞳には不思議なほどの透明感が宿っていた。

「由紀……」亮介の声はかすれて弱々しかった。「こっちへ来て、座ってくれ」

由紀は一瞬ためらった後、ゆっくりとベッド...

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