第5章

グランホテルのボールルームは、クリスタルシャンデリアに照らされ、その無数のきらめきが大理石の床に反射していた。白峰主催の秋のチャリティーガラはたけなわで、男たちは燕尾服に身を包み、女たちはパリ最新のイブニングドレスで着飾っている。シャンパングラスの軽やかな音色が、弦楽四重奏の優雅な調べに溶け込んでいた。

由紀は一人でボールルームに足を踏み入れた。深いネイビーのシルクドレスがりりしく、パールのネックレスが光を受けてほのかに輝く。しかし、その指には、華やかな周囲とは対照的にシンプルな銀の指輪がはめられていた。直哉の指輪だ。

「どうして神谷奥様がお一人なのかしら?」

「神谷さんはどうした...

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