第6章

夜明けの最初の光が、重厚なベルベットのカーテンを抜けて片倉家のキッチンに差し込んでいた。神谷亮介はそこで、もう二時間も忙しなく立ち働いている。由紀のお気に入りだったレースのエプロンを身につけ、鋳鉄のスキレットでパンケーキをひっくり返すその手は、震えていた。

手に握ったヘラが震え、生地がコンロに飛び散る。亮介は小さく舌打ちした。

「くそっ……」額に汗を浮かべ、フライパンの中の焦げたパンケーキを見つめながら、彼は呟いた。これは由紀が大好きだった、メープルシロップをかけたふわふわのパンケーキだ。

新婚の頃、毎週日曜の朝に作ってやったことを思い出す。彼女は笑いながら、どこのダイナーのもの...

ログインして続きを読む