第186章

渕上晏仁は首を振り、「まさか、ただ、叔父さんに分かってほしいんだ。何もない人間でも、恐れるものはないってことを」

そう言い終わると、渕上晏仁はそのまま背を向けて去っていった。

車に戻ると、渕上晏仁は袖を振り、袖口から一振りの短刀が落ちてきた。刃が冷たい光を放っている。

彼は短刀を拾い上げ、冷笑を浮かべた。

もしさっき渕上迅が同意しなかったら、この刀は柊木玲文の首に当てられていただろう。

だが、よほどのことがない限り、彼はそんなことをしないつもりだった。

何しろ、彼と柊木玲文は一応夫婦だったのだから。

オフィスには柊木玲文と渕上迅だけが残り、一時的に静寂が訪れた。誰も口を開かなか...

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