第89章

彼女の声は、静かな森の中で特に鮮明に響いた。

立ち去ろうとしていた高波直俊は突然足を止め、思いの強さから生まれた幻覚かと思い、その場に立ったまま、目を閉じ、耳を澄まして、注意深く聞き入った。

しかし、よく聞いてみると、木の葉が風に揺れるサラサラという音以外に、三原由美の声は全く聞こえなかった。

やっと燃え上がった希望は一瞬で消え去った。

高波直俊は失望して目を開け、別の場所を探すために歩き出そうとした。

だが、一歩踏み出した途端、耳元でまた三原由美の声が響き、二度続けて呼びかけた。

「高波直俊……」

「高波直俊……」

今度は、はっきりと聞こえた。幻覚ではなく、確かに三原由美の...

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