第172章 どうですか、賭けますか?

部屋に入る前に、彼は突然立ち止まり、テーブルの上の白いバラを冷ややかな眼差しで見つめた。

「花が好きなのか?」彼は尋ねた。

記憶の中で、彼は誰かに花を贈ったことなど一度もなかった。

佐藤明里は何と答えればいいのか思い浮かばず、「人による」と小さく呟いた。

言った瞬間、自分の舌を噛み切りたくなった。

案の定、藤原信一の表情が暗く沈んだ。

実は彼を刺激するつもりはなかった。大学時代、ある男が彼女をよくつけ回していて、知らないうちにカバンや教科書に赤いバラを一輪忍ばせていたことがあった。

しばらくの間、彼女は本当に怖かった。バラを見るといつも嫌な記憶が蘇った。

だから「人による」と...

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