第174章 狭路相逢

彼女は後悔したくない。

そうなると、今までの奉仕は無駄になるじゃないか。

佐藤明里はそれを許さず、苦しさを堪えながら言った。「あと一時間半よ」

藤原信一は彼女の背けられた顔を無理やり戻し、暗く掠れた声で極度の不機嫌さを滲ませた。

「本当にいいのか?」

佐藤明里は唇を噛み締め、涙が溢れ出るほど辛くても、頑固に妥協しなかった。

藤原信一は彼女の紅潮した頬を見つめ、意味深に一度笑った。

その笑みは、決して嬉しそうなものではなかった。

佐藤明里は全身が強張り、不安を感じた。彼女の腰を支える手さえも温度が下がったように感じられた。

案の定、藤原信一は笑みを消し、氷のように冷たい声...

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