第67章 私は彼を動かさない

五十嵐雪菜は平沢景行の広い背中を手で撫で回し、平沢は一瞬身体を強張らせた。

彼の背中には無数の恐ろしい傷跡が残っていた。あの人を魅了する顔とは裏腹に、背中は見るに堪えないものだった。

五十嵐雪菜は実のところ、少し嫌悪感を抱いていた。だが、あの顔を見ると、これらの傷跡も許容できるような気がした。それに平沢景行は寝技も素晴らしく、彼女にも優しかった。

どれほど優しいかって?

彼女は、自分が平沢景行に刺されろと言えば、彼は躊躇わずにそうするだろうとさえ思っていた。

女というものは、誰だって顔も良くて能力もある忠犬が好きなものだ。

そう考えると、彼女は当時本当に宝を拾ったようなものだった...

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