第7章 艶めかしい

佐藤明里は悪夢を見た。夢の中で、藤原信一が林田雪乃の手を引き、冷たい表情で彼女を病床に押し倒した。

「お前なんかに俺の子供を産む資格はない。今すぐ堕ろせ」

藤原信一は冷たく手を振り、周りの手術着を着た医者たちが集まってきた。

「やめて、お願い、私の子供を傷つけないで」

佐藤明里は必死に抵抗したが、手足はしっかりと縛られていた。

手術刀が皮膚を切る痛みを感じ、藤原信一の冷たい目と林田雪乃の残酷な笑顔が見えた。その恐怖と怒りで、彼女は目を覚ました。

目を覚ました佐藤明里が最初に見たのは、藤原信一だった。彼女はまだ夢の中にいるのかと思った。

「さっき子供のことを言ってたけど、どういうことだ?本当に妊娠しているのか?」

藤原信一は眉をひそめて佐藤明里を見つめた。

佐藤明里はすぐに首を振り、苦笑いを浮かべた。

「妊娠なんてしてないわ。最近見た映画のせいで、つい自分を主人公に重ねてしまったの」

藤原信一は疑わしげに佐藤明里の腹を一瞥した。

佐藤明里は緊張した。藤原信一に嘘がばれるのではないかと恐れていた。その恐怖で心臓が激しく鼓動した。

しかし、最終的に藤原信一は視線を戻した。

「病院に連れて行くよ。君の高熱はかなりひどいみたいだ」

藤原信一は突然言った。

佐藤明里はすぐに首を振った。今は妊娠中で、妊婦が使えない薬もある。治療に行けば医者にばれてしまうかもしれない。

「大丈夫、薬を飲んだから、もうだいぶ良くなったわ」

佐藤明里はテーブルの上の解熱剤を指さした。これは薬局で妊婦でも飲めると相談したものだ。

しかし、藤原信一はそんな選択を許さなかった。彼は佐藤明里の体をもっと心配していた。

「この薬は見たことがない。やっぱり病院に行った方が安心だ」

藤原信一はそう言って、佐藤明里をベッドから抱き上げ、ドアの方へ向かおうとした。

「本当に大丈夫だから、病院には行きたくないの。もう少し休ませて、お願い」

佐藤明里は焦って抵抗した。藤原信一に妊娠がばれるのは避けたかった。

藤原信一は佐藤明里の激しい抵抗を感じ、眉をひそめた。

「どうしてそんなに病院を嫌がるんだ?」

藤原信一は疑念を抱いたが、その理由がわからなかった。

佐藤明里は首を振った。

「ただ病院の消毒液の匂いが嫌いなだけよ」

藤原信一はテーブルの上の薬を一瞥し、最終的に佐藤明里を下ろした。

「今夜だけ様子を見るよ。もし熱が下がらなかったら、必ず病院に連れて行く」

藤原信一は最終的に佐藤明里に一晩の猶予を与えた。

佐藤明里はベッドに横たわり、ほっと息をついた。

その時、藤原信一が彼女の前で服を脱ぎ始めた。

一枚一枚の服が滑り落ち、藤原信一の鍛えられた体が佐藤明里の目の前に現れた。結婚して二年経っても、その体を見るたびに佐藤明里の顔は赤くなった。

藤原信一の体はすぐに裸になった。

藤原信一は浴室に向かおうとしたが、突然佐藤明里の顔を見た。

彼女の目には一抹の恥じらいが浮かんでいた。

藤原信一は微笑み、裸のまま佐藤明里の前に立ち、彼女の顎を掴んで顔を上げさせた。

「もう結婚してこんなに経つのに、まだそんなに純情なのか?」

佐藤明里の顔はさらに赤くなり、発熱のせいか恥ずかしさのせいか、頬が熱く感じた。

「恥ずかしくなんかないわ。ただ熱のせいで少し頭がぼーっとしてるだけ」

佐藤明里は自分の言葉がぎこちないと感じた。

藤原信一は突然、佐藤明里の唇にキスをした。彼女の体は一瞬硬直した。

『だめ、妊娠してるからこんなことはできない』

佐藤明里が藤原信一を押しのけようとした時、彼は唇を離した。

「40度の唇って、やっぱり違うな」

藤原信一はいたずらが成功したように悪戯っぽく笑い、裸のまま浴室に入っていった。

佐藤明里はほっと息をついた。少なくとも藤原信一はそれ以上のことをしなかった。妊娠の最初の三ヶ月は性生活を控えるべきで、流産のリスクが高まるからだ。

十数分後、藤原信一は浴室から出てきた。胸にはまだ乾いていない水滴が転がり、胸筋の間を流れて腹筋の隙間に落ちていった。

その光景は非常に誘惑的だった。

佐藤明里は無意識に唇を舐めた。

彼女はこんなに素晴らしい男性を手放したくなかった。人間は利己的ななもので、彼女も神ではない。結婚しているのに旦那を他人に譲るなんてできない。

しかし、藤原信一が本当に愛しているのは林田雪乃かもしれないと思うと、心が痛んだ。

愛のない結婚は砂の城のようなもので、どんなに美しく彫刻しても、波にさらわれてしまう。

突然、隣からの動きで佐藤明里の思考が中断された。彼女が振り返ると、藤原信一が明るい目で彼女を見つめていた。

「もう一ヶ月もやっていないな」

藤原信一は佐藤明里のそばに寄り添い、静かに言った。

佐藤明里の顔は赤くなったが、腹の中の胎児を思い出し、親密な時間を過ごすことを止めた。

「だめ、まだ体が辛いから、今は休養が必要なの」

佐藤明里は体を後ろに引き、目に一抹の不安がよぎった。

藤原信一は眉をひそめ、軽くため息をついた。

藤原信一が布団に潜り込むのを見て、佐藤明里はスタンドライトを消した。

部屋は真っ暗になり、突然佐藤明里は背後に熱い体が寄り添ってくるのを感じた。

「動かないで、今夜は君を抱いて寝たい」

藤原信一の声が背後から聞こえた。

佐藤明里は鼻から軽くうなずき、了承の意を示した。彼女は突然身を翻し、藤原信一に向き合った。部屋の微かな灯りを借りて、彼の閉じた目の顔を見た。まるで夜の精霊のようだった。

佐藤明里は藤原信一の呼吸と心臓の鼓動を感じ、彼の腰にそっと手を回した。彼女は本当にこの素晴らしい男性を手放したくなかった。

佐藤明里は顔を藤原信一の胸に寄せ、彼の力強い心臓の鼓動を聞きながら、徐々に眠りに落ちた。

一方、病院の病室では、松本欣と林田雪乃が会っていた。

「雪乃さん、私の心の中では、あなたこそが信一兄さんにふさわしい人だと思っている。佐藤明里なんて田舎者、あなたの足元にも及ばない!」

松本欣は佐藤明里への嘲笑を隠さなかった。

林田雪乃は心に計画を抱き、佐藤明里を対処するための策を考えた。松本欣はその計画に役立つ存在だった。

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