第70章 旦那を呼ぶ

男の声色は冷たく沈んだ調子に厳しさが混じっていた。

佐藤明里は足を止め、踵を返して立ち去りたい衝動に駆られた。

林田雪乃は口元をわずかに上げたが、何も言わずに佐藤明里がお椀を置くのを見つめていた。明里がテーブルにスープを置き、出ようとする姿を。

藤原信一は香りに誘われて顔を上げ、小さな足音で出ていこうとする佐藤明里の姿を目にした。

途端に、冷ややかだった瞳に笑みが灯り、声をかけた。「ちょっと待って」

佐藤明里は足を止めた。

藤原信一は立ち上がり、林田雪乃に言った。「重要なポイントはマークしておいたから、残りは古田圭と一緒に五十嵐部長を探して、彼に頼めば手配してくれる」

林田雪乃...

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