第2章 天から降りてきた救い

森から必死に走り出すと、幹線道路の一部が見えてきた。ほっとする間もなく、遠くから渡辺光の車が近づいてくるのが見えた。慌てて木陰に隠れる。逃げ出したことがバレたんだ。

幹線道路を逃げるのは無理だ。前方で見つからなければ、きっと引き返してくる。見つかったら終わりだ。

車に乗せてもらうしかない。渡辺光の車が視界から消えるのを確認すると、来た道を走り戻り、通りかかる車に必死で手を振った。誰かの同情を引こうとしたが、むなしい努力だった。車の中の人々は、怪訝な目や嘲笑的な視線を投げかけるだけで、一台も止まってくれなかった。

自分の姿を見下ろす。ボロボロの服装に、脚の間には拭い切れていない血の跡。今の私は難民か狂人と変わらない。いや、もっと酷い有様かもしれない。

時間が刻一刻と過ぎていく。渡辺光はもう気付いているはずだ。引き返してくるだろう。残された時間は少ない。

いつ訪れるかもしれない死の恐怖に追い詰められ、無謀な決断をした。

再び光が見えた瞬間、躊躇なく飛び出した。

轢かれて死ぬか、助けてもらうか。

頭の中にはそれしかなかった。

キィーッという鋭いブレーキ音!

衝撃は強くなかった。私が飛び込んだ勢いで転がっただけだ。

みっともない姿で顔を上げ、運命の審判を待った。

暗闇で相手の顔は見えない。ただ、ゆっくりとタバコに火をつける姿が見えた。ライターの小さな火が瞳に映る。

なんだか、かっこいい男性みたいだ!

煙を吐き出してから私を見る。興味深そうな目つきで私の惨めな姿を舐めるように見つめ、穴があったら入りたいほど。やっと口を開いた。

「お嬢さん、たかりにしては随分と物好きですね。こんなボロチャリでも狙うんですか?」

ゆっくりとした口調で、渋い声。だが、その声で言われた言葉は、頬を殴られたように痛かった。

そう、彼が乗っていたのはマウンテンバイクで、さっきの光はヘッドライトだった。

彼からすれば、私の惨めな姿は全て金を巻き上げるための演技に見えたのだろう。

目が合った瞬間、彼は一瞬驚いたような表情を見せ、嘲笑的な表情が一瞬固まった。

でも私はすぐに俯いた。弁解する気もなく、ただ膝を抱えて、彼の判断を待った。

私が金を要求する様子も、彼の嘲りに乗る様子もないことを見て取ると、半分吸ったタバコを挟んだ手をハンドルに置き、ペダルを踏んで去っていった。

曲がり角で姿が見えなくなると、私はついに感情を抑えきれず、小さく泣き始めた。

この瞬間、心の底から彼に留まってほしかった。たとえ嘲笑われるだけでも、この未知の恐怖に一人で向き合うよりはましだった。

暗く静かな山腹で、すすり泣く声が一層際立つ。

しばらくすると、また光が差し、ブレーキ音が聞こえた。私は喜びに似た感情で顔を上げると、マウンテンバイクが路肩に停まっていた。

さっきの男性が戻ってきて、路肩に適当に座り、タバコを吸いながら訊ねた。

「そんな悲しそうに泣いて、家出? DVでも受けたの?」

私は驚いて、涙を浮かべたまま彼を見つめた。彼も私を見返す。

ヘッドライトの光が正面から差し込み、薄い煙越しに、やっと彼の顔がはっきりと見えた。

端正すぎる顔立ちに、男らしい魅力が溢れている。半袖とハーフパンツのスポーツウェア姿で、額の髪は汗で湿っているのに、落ち着いた雰囲気は損なわれず、露出した長い脚と腕は力強さを感じさせた。

きっと私が金を要求しなかったから、悪意ある当たり屋ではないと信じてくれたのだろう。今の彼の目には、ただ困惑と疑問が浮かんでいた。

「具合、悪そうだね?」彼の視線が私の血のついた素足に向けられる。

私は思わず両腕を抱きしめ、小さな声で言った。

「ここから連れ出してもらえませんか」

彼は頷き、口にくわえたタバコのまま立ち上がると、リュックから服を取り出し、自然な仕草で私の肩にかけてくれた。

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