第3章 私はあなたが借金を踏み倒すのを恐れない

「ありがとう!」

感動しつつも、不安な気持ちでいっぱいだった。彼の服からは清潔な石鹸の香りがしているのに、私は汚れていて。

「総合病院まで送るよ」と彼が言った。

総合病院?私はそこから逃げ出してきたばかりなのに。

苦笑いしながら、「家に帰りたいだけです」と答えた。

家という言葉を口にした途端、胸が締め付けられた。

もう、私に帰る家はあるのだろうか。

彼は私をしばらく見つめ、沈黙の後で頷いて「送っていくよ」と言った。

無意識にマウンテンバイクを見て、これは少し難しそうだと思った。

私の考えを察したのか、彼は微笑んで携帯を取り出し、電話をかけ始めた。

「山田さん、車を持ってきてくれ」と住所を伝えて電話を切った。

私は少し気まずそうに肩をすくめ、その後は沈黙が続いた。

ライターの音が再び響き、彼はまた一本タバコに火をつけた。

かなりヘビースモーカーみたいだ。

「騙されるの怖くないの?」と淡々とした口調で彼が言った。

首をすくめながら、心の中は悲しみでいっぱいだった。

「私にはもう何も残っていませんから」

言い終わる前に、数台のマウンテンバイクが目の前に停まった。

先頭の男が片足で車を支え、背筋を伸ばして私を見て、それから私の肩にかかった服を見た。

意地悪そうに笑って、からかうように言った。

「お前、やるじゃん。こんな人里離れた場所で、こんな美人と」

隣の男が前輪を軽く蹴った。

「目、見えてんのか?」

そう言われて、その男は私をもう一度よく見て、足の血を見つけると驚いた表情を浮かべた。

「これは、どうしたんだ?」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、遠くからヘッドライトが差してきた。

黒い高級セダンがゆっくりと近づき、少し離れた場所で上手く方向転換して、私たちの前に停まった。

運転手が降りてきた。三十歳ぐらいの、きちんとしたスーツ姿の男性だった。

隣にいた男が運転席に座り、先ほど意地悪そうに笑った男が気づいて文句を言った。

「大輔、人でなしかよ。一緒に帰るって約束したのに、こっそり車呼んでさ。約束は?」

彼の名前は大輔というらしい。フロントウィンドウを開け、タバコの吸い殻を外に捨てながら、かすかに口角を上げた。

「お前らとサイクリングするより、ヒロイン救出の方が面白いだろ。山田さんが付き合ってくれるよ」

そう言って車の中から私を見て、「乗らないの?」と言った。

突然車が走り出すのが怖くて、急いで助手席のドアを開けたが、足を上げた時に躊躇した。

見知らぬ男を本当に信用していいのだろうか。

葛藤の末、結局乗り込んだものの、座れずにいた。足もぴったりとくっつけて、動かせば汚い足跡が付きそうで。

すると車が急に発進し、勢いで後ろに倒れ込んでしまい、結局座ることになった。

顔が一気に熱くなり、すぐに彼の方を見た。

「すみません、洗車代は払います」

彼は口角を上げ、清々しい笑い声を立てた。

「うちの車、一回の洗車で5000円かかるんだ。しつこい汚れがついてたら追加料金も」

しつこい汚れという言葉に、センターコンソールから消毒シートを取り出して私に渡した。

「とりあえず拭いておいで。この姿で家に帰ったら、私が何かしたと思われかねないから」

5000円?普通の洗車なら3000円もしないのに、この車は5000円?

確かに渡辺光の車より高級そうだけど、洗車代とタクシー代合わせても5000円は高くない。

あちこち探したけど、財布は総合病院に置いてきてしまったことに気づいて落ち込んだ。携帯以外何も持っていない。

今の私は、無一文で、5000円すら払えない。

落ち着いてきて、とりあえず安全な場所にいることを自分に言い聞かせてから、彼を見た。

「今お金を持っていないんですが、信用してもらえるなら電話番号を控えさせていただいて、後でお支払いします」

携帯を取り出して番号を控えようとしたら、電源が切れていることに気づいた。

説明する前に、彼は後部座席から資料の束を取り出し、その裏の空白部分に電話番号を書きながら言った。

「気にしなくていいよ。焦る必要もない。踏み倒されても困らないし」

無理に笑顔を作って、名前を聞くと、電話番号の後ろに名前を書いた。藤原大輔。

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