第4章
私はかつてドラマをよく見ていたので、男性がなぜ何度も「高嶺の花」に落ちるのか、家にいる妻の美しさがどれほど「高嶺の花」を超えていても、その理由がよく分かります。
男性が「高嶺の花」にしっかりと掴まれてしまう根本的な理由は——手に入らないものほど欲しくなるということです。
もし佐藤美咲が「高嶺の花」だとしたら、山本翔一が彼女と結婚できないという事実こそが、山本翔一の心に永遠に後悔を残し、彼女に対して常に満たされない欲望を感じさせる原因なのでしょう。
山本家は名の知れた名門一族で、二人は世間体の理由で結ばれることはないと決まっていたのです。
実際には彼らは血のつながりのない兄妹で、縁と縁が重なるのは悪くないと思うのが一般的な見方です。
このような名門は先祖代々の家業を重んじており、彼らは継承の使命を担っていると自負しています。名門にとって結婚は人生の重要な一手で、釣り合わない身分の相手との結婚は許されず、ましてや兄妹の恋愛なんて容認できるはずがありません。
まさにこの理由で、佐藤美咲は山本翔一が一生面倒を見なければならない「高嶺の花」になったのです。
話を戻すと、もし私の考えが正しければ、おそらく佐藤美咲のウンコさえも山本翔一には香り高く感じられるのでしょう。私にはどうやって勝てるというのでしょうか？
その後の手術はとても順調でした。私は一人でそこに座って待ち、一言も発しませんでした。周りには二人連ればかりだったからです。
廊下には消毒液の匂いが充満していました。その匂いが私の脳まで消毒してくれたようで、しばらく座っていると、頭がとても冴えてきました。そこで山本翔一にメッセージを送りました。
「もし二者択一なら、私と佐藤美咲、どちらを選ぶ？」
私は決めていました。もし彼が佐藤美咲を選ぶと言えば、すぐに立ち去り、潔く二人の幸せを祈るつもりでした。ただ、物事をはっきりさせて、納得して去りたかったのです。
私は携帯を握りしめて待ちました。しかし私のメッセージは大海に落ちた雨のしずくのように、何の反応も返ってきませんでした。本当にそんなメッセージを送ったのかさえ疑わしくなりました。
再び考えを巡らせ、このメッセージは衝動的だったと感じました。でも、衝動的な瞬間に決断しなければ、長年愛してきた男を他の女に譲るなんて、どうやって自分を納得させられるでしょうか？私はすべての「高嶺の花」が憎らしい。
動きのない携帯を見つめながら、もしかしたら二人は病室で対策を練っているのかもしれないと思いました。そこで、真実を見つけようという思いで、再び佐藤美咲の病室へ向かいました。
病室では、山本翔一がフォークでカットしたリンゴを刺し、注意深く佐藤美咲に差し出していました。その動作は優しく、目には私が見たことのない温かさが宿っていました。
少し後悔しました。もう少し遅く入れば、彼らが浮気している証拠を掴めたかもしれません。キスをしているところでも証拠になったはず。そうなれば、もう悩まなくて済んだのに。
私はドア口に立ち、山本翔一を呼び出しました。彼は不機嫌そうに「哺乳瓶」を置き、冷たい表情で対決する構えを見せました。
「何か大事な急用でもあるのか、病院でわざわざ話さなければならないほどの」
「あ・な・た・の・返・信・を・待・っ・て・い・る・の」私は目を据え、一言一言はっきりと言いました。
山本翔一はズボンのポケットから携帯を取り出し、メッセージを見た後、舌先で頬の内側を少し突き出し、私の目をじっと見て問いただしました。
「なぜ選ばなければならない？平和な日々なのに、何を取り乱しているんだ？」声は小さいながらも、口調は厳しかった。
病院でなければ、彼はこれらの言葉を怒鳴っていただろうと思います。
彼は私が心の秘密を突いたことに対して、少しも慌てたり不安になったりする様子はありませんでした。彼の十分に堂々とした視線の下で、心が揺らいだのは私の方でした。
彼はさらにポケットからタバコを取り出し、一本吸おうとしましたが、病院にいることを思い出して止めました。手首の仏珠を外し、手の中で弄んでいました。
空気は凝固し、廊下の明かりは惨白で、私の顔もきっとそんな白さだったでしょう。私は困惑しました。なぜ彼と対峙するたびに、いつも私が負けてしまうのか。彼が精神的に浮気しているという私の確信さえも曖昧になってきました。私は自問し始めました。私が敏感すぎるのではないか？彼がどうしてこんなにも堂々としていられるのか？
考えをまとめ直し、再び質問しました。
「彼女はどんな病気で入院しているの？」
「もう三回も聞いただろう、これは美咲のプライバシーだ。もう聞かないことを勧める」
「プライバシー？あなたは私という妻との関係が近いの？それとも偽の妹との関係が近いの？」
「意味不明だ！」
またしばらくの沈黙が続きました。
「じゃあ最後に一つ聞くわ、ここに残って彼女に付き添うの？それとも私と一緒に帰るの？あなたの選択がそのまま答えになるわ」
「わがままを言うな」と言うと、彼は病室に入り、ドアをバタンと閉めました。
私は言葉に詰まりました。そのドアを叩き壊して、彼を引きずり出したかった。
「いいわ、私が行くわ！」すでに選択は下されたのです。私は二歩後ずさり、振り返って走り出しました。
「これからはあなたの好きなように彼女に付き添えばいいわ」
山本翔一は私を追いかけてきませんでした。病室のドアが開いて閉まる音が聞こえ、
「お兄さん、喧嘩したの…」
——家に帰ると、ドアを開けるとすぐに山田さんが迎えに来て、スリッパを持ってきて私のバッグを受け取ってくれました。
「あら、奥さん、怪我されたんですか？お医者さんを呼んだ方がいいですか」
山田さんは私の包帯を巻いた手に気づき、心配そうに尋ねました。この他人からの思いやりに、私は不意を突かれ、思わず鼻が詰まりそうになりました。山本翔一は半日私と一緒にいたのに、私の手が怪我していることに気づかなかった、あるいは気づいても全く気にしなかったのです。
結婚して4年の夫は、お金を払って雇っている料理人よりも劣っていました。
愛はこの世で最も安っぽいものだと言われますが、まさにその通りです。
「山田さん、私は病院から帰ってきたばかりだから、今日は料理しなくていいわ、もう帰っていいですよ」
家の家政婦は皆住み込みではなく、時間通りに来て時間通りに帰ります。生活に必要な掃除や料理以外に、私は家に多くの人がいるのが好きではありません。そして今、私はとても疲れていて、一人になる必要がありました。
山田さんは慌てました。
「それはいけません、せめて掃除をしてから帰らせてください、あなたのお給料をただでいただくわけにはいきません」
私は山田さんの性格を知っていました。決して人の便宜を図るタイプではないので、彼女の言うようにさせました。
私はそこに立ち尽くし、忙しく動き回る山田さんの背中を追いながら、4年間住んでいた家をじっくりと見つめました。広々としたリビング、深い色合いの木目調タイル床、金色の大理石の壁。朝日が差し込む側には、壁一面ほどの高さの床から天井までの窓があり、窗の外から熱帯果樹の香りが別荘に吹き込んでいました。部屋のすみずみまで快適な雰囲気に満ちていました。
山田さんの周りに集められたゴミの山が、私を現実に引き戻しました。それらは私のものではない物でした——小さなぬいぐるみ、明るい色のカートゥーンのヘアピン、かわいいブラインドボックスのフィギュア、そして私には理解できない多くのアニメカード。
「山田さん、それらはそのままにしておいて」
私は遅ればせながら気づきました。4年間住んできたこの家がいかに分断されているかを。私は暖色系が好きで、整然とした空間と、太陽の光が家のすみずみまで遮るもののない状態を好みます。しかし、このような居心地の良い家のすみずみに美咲の痕跡がありました。
私は他人が私のプライベート空間を侵すのが嫌いですが、佐藤美咲はこの家に4年も住んでいました。人も家も私のものではありません。去るべき人は佐藤美咲ではなく、私なのです。
「山田さん、スーツケースを持ってきてください、荷物をまとめます」
山田さんは私の表情を慎重に伺いながら
「奥さん、旦那様と喧嘩でもしたんですか？生活していれば小さな衝突はあるものです。喧嘩したからといって私たちが出て行くわけにはいきません、出て行くなら旦那様が出て行くべきです」と冗談めかして言いましたが、私はその言葉に温かさを感じました。
山田さんは家政センターから雇った人ですが、私に親しみを持っているのは不思議ではありません。「落ち着いたら、あなたを呼びますよ。あなたの料理に慣れてしまって、他の人のは慣れないわ」と私は言いました。
時間を稼ぐために、山田さんはのろのろと荷物をまとめ、時々窓の外を見ていました。私は彼女が何を待っているのか分かっていました。彼女は先ほど私の背後で山本翔一に電話をしたのです。
私は思いました。見ても無駄よ、彼は戻ってこないわ。
結局、スーツケースはまとめられました。山田さんは豊満な尻でその上に座り、やっとファスナーを閉めることができました。私が手を伸ばして受け取ろうとすると、彼女は力強く引っ張って手放しませんでした。押し問答の末、若い私が勝ちました。
私は彼女を慰めました。
「山田さん、引き続きここで働いてください。特においしい料理を作る必要はありません。私の代わりに山本翔一からたくさんお金を稼いでください。できれば彼が破産するまで」
山田さんへの素敵な祝福の言葉は、私たちの別れの挨拶のつもりでした。
山田さんは突然私に向かってまばたきしました。涙が出ないのに無理に絞り出そうとしているのでしょうか？
そこまでする必要はないのに。
私は手を振り、振り返って歩き出しました。後ろに向きを変えるのが急すぎて、壁にぶつかってしまいました……
