第10章 もう助からない

山本希は黙って聞いていた。

「もう長くは生きられないわ……」佐藤奥さんの目に涙が光ったように見えた。「心臓の病気がどんどん悪くなって、もう手の施しようがないの」

佐藤お父さんは黙っていた。

佐藤奥さんは自分で作り出した雰囲気に深く浸り、まるで本当に死を目前にしているかのようだった。「お母さんはこの世に何の望みもないけど、あなたたち二人が幸せなところを見たいだけ。せめて私が死ぬ前に……」

言葉が終わらないうちに、山本希は白くて細い手で佐藤奥さんの手首を取り、真剣に脈を診た。

顔を近づけて、真剣に佐藤奥さんの瞳孔を観察する。

日頃からこの年上の方に大切にされていたこともあり、山本希は...

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